大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13121号 判決 1999年12月24日
原告
松本時子
被告
北川運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自、金二一六万七八三〇円及びこれに対する平成八年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その二を被告らの、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自、金一四一三万二一二六円及びこれに対する平成八年五月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、次の交通事故により負傷した原告が、相手方車両の運転手である被告藤原晴吉(以下「被告藤原」という。)に対し民法七〇九条に基づき、所有者である被告北川運輸株式会社(以下「被告北川運輸」という。)に対し自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償の内金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実
1(本件事故)
(一) 日時 平成八年五月九日午前九時二五分ころ
(二) 場所 大阪府枚方市大峰元町一丁目三四番二〇号先路上
(三) 加害車両 被告北川運輸株式会社(以下「被告北川運輸」という。)保有、被告藤原晴吉(以下「被告藤原」という。)運転の大型貨物自動車(和泉一一く七一七一)
(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(大阪七八は四七三八)
(五) 態様 右折のため停止中の被害車両に後続の加害車両が追突した。
(六) 受傷 頸部・腰部捻挫、耳鳴症
2(責任)
(一) 被告藤原は、前方不注視などの過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。
(二) 被告北川運輸は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任がある。
3(治療経過)
原告は、本件事故により次のとおり治療を受けた。
(一) 医療法人医恵会田中第一病院
平成八年五月九日から同月二一日まで通院(実通院日数五日)
(二) 吉田健康指導所(鍼灸)
平成八年五月一一日から同年七月九日まで通院(実通院日数三〇日)
平成九年一月一四日から平成一〇年三月一八日まで通院(実通院日数九五日)
(三) 高井病院
平成八年六月八日から平成一〇年四月一一日まで通院(実通院日数四四日)
4 損害填補 一二〇万円
自賠責保険金(被害者請求)
二 争点
1 症状固定日
(原告)
平成一〇年四月一一日
(被告ら)
平成八年九月一四日
平成八年九月は、通院日数は一日のみであり、その際の「症状の経過・治療の内容及び今後の見通し」は「経過観察中」とされ、具体的な診察内容としては、「指導」がなされたのみである。
外部所見のない頸部捻挫の通院期間は三か月程度とされる例が多いが、本件もこの時点で既になすべき治療は特になかったものであり、したがって、症状固定日は遅くとも同月の通院日である平成八年九月一四日とするのが妥当である。
よって、同日以降の通院は、本件事故と因果関係がない。
なお、甲二二の診断書によると、平成九年一月一四日を症状固定日としているが、平成八年九月一四日から右平成九年一月一四日までの間も、さしたる治療実績はなく、症状固定日を平成九年一月一四日とするのは過剰な診療である。
ましてや、平成一〇年四月一日を症状固定日とする原告の主張は明らかに根拠を欠いている。
2 損害
(一) 治療費(文書料を含む) 一〇三万四五五〇円
(二) 通院交通費 一三万三二八〇円
(三) 有給休暇使用による損害 九九万八七八八円
原告は、本件事故による治療のため、有給休暇三〇・五日を使用したが、これは本件事故による損害と認められるべきである。
本件事故前三か月の給与総支給額 一九九万七五七八円
199万7578円÷61日×30.5日=99万8788円
(四) 逸失利益 一〇五三万六〇一八円
(1) 原告は、生命保険会社に勤務しており、本件事故時、トレーニングリーダーとして管理職の地位にあったが、本件事故で欠勤したことにより、平成九年二月から営業職一般のFA主任に降格となった。
その後、原告の営業努力により、平成一〇年二月から特別FA主任に昇格したが、トレーニングリーダーへの復帰は、任命時の年齢上限四五歳という制限規定等があるために不可能となった。
トレーニングリーダーの定年は、五七歳である。
(2) トレーニングリーダーとしての給与は、歩合給は別として、次のとおりである。
<1> 基本給 二〇万円
<2> 資格手当 三万円
<3> 夏の臨時給与 二三万円
<4> 冬の臨時給与 二七万円
<5> 資格手当 二万五〇〇〇円
特別FA主任の給与は、次のとおりである。
<1> 基本給 一七万五〇〇〇円
<2> 夏の臨時給与 一一万円
<3> 冬の臨時給与 一二万円
(3) 平成九年度以降トレーニングリーダーの定年である平成一九年までの逸失利益を算出すると、次のとおり一〇五三万六〇一八円となる。
<1> 平成九年の逸失利益
原告の平成八年分の給料支給総額一〇二四万七六八八円から平成九年分の七二九万九一四五円を差し引いた二九四万八五四三円
<2> 平成一〇年から平成一九年までの逸失利益
トレーニングリーダーの前記基本給及び資格給から特別FA主任の基本給を差し引いた額の一〇年分五二四万三七〇〇円及び臨時給与の差額の合計額の一〇年分二三四万三七七五円の合計七五八万七四七五円
(23万円-17万5000円)×12か月×7.945=524万3700円
{(23万円+27万円+2万5000円)-(11万円+12万円)}×7.945=234万3775円
(五) 通院慰謝料 一五〇万円(争いがない。)
(六) 弁護士費用 一三〇万円
第三判断
一 争点1(症状固定日)
証拠(甲八ないし二四、原告本人)によれば、高井病院の通院日数は、平成八年六月は九日、同年七月は八日、同年八月は九日、同年九月は一日、同年一〇月は五日、同年一一月は二日、同年一二月は二日、平成九年一月は二日、同年二月は四日であり、最終的に症状固定の診断を受けた平成一〇年四月一一日までの間に期間があることが認められるが、この間は主として吉田健康指導所(鍼灸)での施術を受けていたものであり、原告には神経学的所見もあったことを考慮すると、平成一〇年四月一一日をもって症状固定とすることに特段の不合理な点はなく、高井病院において平成九年一月一四日にいったん症状固定との判断がなされているが、これは保険診療に切り替えるためで、その前後で治療方法に特段の変更はないから、右の点は前記判断に差異をもたらすものではないと考える。
二 争点2(損害)
1 治療費(文書料を含む) 一〇三万四五五〇円
証拠(甲三、五、七、九、一一、一三、一五、一七、一九、二一、二三、二五の1ないし7、二六、二七の1ないし16)により認められる。
2 通院交通費 一三万三二八〇円(甲二八)
3 有給休暇使用による損害 五〇万円
証拠(甲二九の1、2、原告本人)によれば、原告は、昭和六二年一一月一日から日本生命保険相互会社京阪支社で営業職員として勤務し、本件事故による通院治療のために平成八年五月九日から同年一二月三〇日までの間三六・五日欠勤したうち、有給休暇を三〇・五日を使用したこと、本件事故による治療のため、有給休暇三〇・五日を使用したが、右欠勤中の給与は全額支給されたことが認められるから、右について欠勤した場合と同様の計算で損害を算定するのは相当ではないが、本件事故がなければ右有給休暇は自己のために自由に使用し得たことを考えると、慰謝料として五〇万円を認めるのが相当である。
4 逸失利益
証拠(甲二九の1、2、三〇の1ないし3、三一、三二の1、2、三三、三四の1ないし3、三五、三八、三九、四四、原告本人)によると、原告(昭和二五年三月二八日生)は、日本生命から外交員報酬として、平成七年は九五六万八八〇〇円、平成八年は一〇二四万七六八八円、平成九年は七二九万九一四五円、平成一〇年は九〇三万〇〇九七円を得ていること、日新火災海上保険から外交員報酬として、平成七年は三六万九七八一円、平成八年は三五万四一一四円、平成九年は四〇万〇一五四円、平成一〇年は四三万〇四二五円を得ていること、本件事故当時は日本生命のトレーニングリーダー(平成七年四月から)の職種にあったが、本件事故による傷害の治療のため、同職種に従事することが不可能となり、平成九年二月一日、FA主任に職種替えをされたこと、トレーニングリーダーが傷病欠勤により解任された場合、再出勤開始後引き続きトレーニングリーダー職務の遂行が十分期待される場合は、解任後一年以内は支社長の決定に基づき、解任時資格へ復帰できることが認められる。
右に認定の事実によると、原告の収入は基本的に事業所得として契約締結数等の歩合により大きく変動するものであること、平成九年二月一日トレーニングリーダーを解任された一年後の平成一〇年二月一日(症状は固定していた。)までに職務の遂行が十分期待される場合はトレーニングリーダーに復帰が可能だったのであり(この場合に任命時年齢の制限がなされるものとは考えられない。)、原告の受傷の、部位、程度及び通院治療の内容(比較的早期からリハビリ治療及び鍼灸院での施術を主として受けていた。)からすると、原告に意欲があれば十分にトレーニングリーダーへの復帰が可能であったものと認めるのが相当であること、日新火災海上保険からの外交員報酬は平成七年以降安定していること等からすると、本件事故によりトレーニングリーダーを解任されたことを理由とする逸失利益の請求は理由がない。
5 通院慰謝料 一五〇万円(争いがない。)
6 以上を合計すると三一六万七八三〇円となる。
7 自賠責保険金一二〇万円が支払われているから、これを控除すると、一九六万七八三〇円となる。
8 弁護士費用 二〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。
三 よって、原告の請求は、二一六万七八三〇円及びこれに対する本件事故の日である平成八年五月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合にる遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 吉波佳希)